2018年05月22日

彼方の友へ



 介護施設に入っている老婆「ハツ」は、最近めっきり老いがすすんでしまい、起きていても夢をみてしまう。それは、若い頃憧れの「乙女の友」の編集部で働き始めた頃のころから始まる。

 時は昭和15年。
 戦時色が濃くなりつつある中、父親が上海へ行ったまま消息を絶ち、母親は病にかかったため、それまで通っていた音楽学校に通えなくなったハツ。同居しているおじさんの紹介で「乙女の友」編集部主筆付き小間使いとして働くことになる。
 時局に逆らう反逆分子として睨まれていた主筆の監視役として送り込まれた形となったため、招かれざる客として扱われるハツ。それでも憧れの雑誌の編集部に居続けたい一心で、孤軍奮闘する。
 物語は、夢から覚めた現在と、戦時色をどんどん濃くし、終戦までの間をいったり来たりしながら進んでゆく。
 
 この物語は、いろいろな角度から読むことができる。
 乙女が活躍する青春小説、あるいは純愛小説。男性社会の中で苦悩しながらも活躍する女性像、過去を懐かしむ老人の悲哀や戦争へ突き進む時局を感じたりすることが出来、読む人の性別や年令により、見え方が変わってくるように思う。

 私は、戦時色が濃くなり、表現が奪われ、紙も奪われ、人さえも奪われる中、それでも懸命に「彼方の友」たちに雑誌を届けようとする姿に心を打たれたのと、やはり年齢のせいか、若い頃の思い出に浸るハツの姿に自らの姿を重ねて、グッとくるものがありました。

 現在はインスタ映えが流行語になるくらい、見た目が重視される世の中になっていて、ちょっとどうなの?なんて思ってましたが、この物語を読んで、戦時色が濃くなるにつけ、雑誌から色が失われてゆくさまが描かれていると、過剰でもカラフルで可愛いく、見栄え良い美しい者たちがあふれる世の中は、とてもとても幸せが溢れているのかもしれないなと思うようになりました。

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ラベル:伊吹有喜
posted by KOZO at 21:27| 静岡 ☀| Comment(0) | 本の感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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